中国の音 第17回
耳(er2)語(yu3) ―― 中国人はヒソヒソ話ができない?
【SuperCityChina 2006年10月号】

   中国人はヒソヒソ話が苦手らしい。例えば、誰かに知られないようにヒソヒソと内緒話をするのが不得意なのだ。その理由はどうやら、隠し事の嫌いなオープンな性格だからという訳ではなく、中国語の珍しいある性質に関係しているらしいのだ。 
   これを証明するために、日本語を流暢に話す中国人に直接聞いてみた。
  (筆者)中国語ってヒソヒソとささやける?
  (中国人)(唐突に質問され)う〜ん…。
  (筆者)難しい? じゃ、日本語と比べてみるとどうかな?
  (中国人)そう言われてみると、中国語って、ひそひそ話ができないかも。授業中に友達とひそひそ話しをしてたら、つい声が大きくなって先生に叱られちゃったことが何回もある。
   やっぱり中国人はヒソヒソ話が苦手のようだ。その理由は「日本語や英語などの言語は音程が2つだけだが、中国語は3つもある」という、中国語そのものの珍しさに深く関係しているのだ。
日本語の、「ありがとう」、英語の「Thank you」、中国語の「謝謝」を例にとって、これを高低で表現する。すると、「ありがとう」は「り」だけが高くアクセントが置かれている。「Thank you」は「Than」は高く、残りの部分は低い。日本語も英語も高低2つの音程で表現できる。注1)
    ところが、中国語の「謝謝」は高低だけでは表現できない。高と低の中間の高さが存在するからだ。それを中とすると、「謝謝」は「シ(高)エ(中)シ(中)エ(低)」と分かれているのだ。
   2つの音程である英語や日本語であれば、声帯を使わない無声音=ささやき でもコミュニケーションは問題なく成立する。しかし中国語は無理だ。無声音から有声音に切り替わってしまい、つい声が出てしまう。中国語が2つの音程だけで構成されていない一つの証拠だ。
    理解しにくい方は、変化の激しい組合せ、例えば3声+4声の固有名詞で試してみてほしい。例えば「武漢(Wu3 han4)」,「李燕(Li3 Yan4)」、「日本(Ri4 ben3)」。
ここで、中国語の肝である4声を用いれば、高、中、低は一目瞭然だ。

    しかし、その4声を使わなくても「中国語は3つの音程」を証明することは思いの外簡単なのだ。冒頭のヒソヒソ話も含め、以下にその証拠をまとめてみる。
1.ヒソヒソ声――お互いの耳元であれば通じるが、少しでも距離が離れると中国語ではひそひそ話はできない。
2.ロボットボイス――昔のSFやアニメでのロボットのように、抑揚を付けずゆっくりと平坦に、1つの音程で「ワ タ シ ワ マ ツ バ ラ デ ス」と反してみると、日本語では充分に意味が通じる。英語でもほぼ同じ状況だ。ところが中国語はこのロボットが通じない。我是松原弘明、ウォー シー ソン ユェン。我是(wo3 shi4)までは何とかなっても、松原弘明(song1 yuan2)でお手上げとなる。これも中国語が2音程でない証拠だ。
3.ろうあ者の発声―― 耳の聴こえない人は中国語を話せないのでは?ふと浮かんだアイディア。日本語であればイントネーションが違っても意味はわかるが、3音程の中国語は絶対無理なはず。確認してみると、正にその傾向が強いようだ。生まれつき耳の不自由な人で中国語を話せる人は、ほとんどいない。非常に希少であるため、テレビ出演できるほどの存在価値だそうだ。注3) 
ちなみに、日本語にはろう者、あ者、ろうあ者の3つが存在するが、中国語にはろうあ者の1分種しかないという。それも興味深い差異である。
4.歌詞の認知――歌詞の認知は中国語では低くなる。イントネーションが複雑である一つの証しだ。
5.上海語――冒頭のヒソヒソには、話の続きがある。ある上海人は「普通話(中国語の標準語)ではヒソヒソ話できないんで、上海人同士の時は上海話に変えちゃいます」という。この話を聞いて、中国人からよく耳にする「上海語と日本語は雰囲気が似ている」という事柄と電光石火でつながった。と言うことで、上海語については早速研究を始めた。近日公開をめざす。

注1)ただし、気持ちを込めて感情的に話すときは、時系列で高低の基準が変化するため、この場合考慮の外とする。先月号の例の あいしてる はその典型例である。
注2)実際の発声と記号を比較すると、3声のみが異なる。3声の記号のVにより、発生も中→低→中と誤って認識している中国人も多い。3声は、低で溜めて中まで上げる音である。
注3)言語能力獲得後に、事故か病気で後天的に耳が聞こえなくなった人は、別である。
謝辞 記事執筆に当たり御協力戴いた、小鈴,廖原,Rainy李,Racheal張,Gloria倪,Cliff楊,Lucia虞,青島梁平,Sakii蔡,Judy朱,Ruben,Lilly李 に感謝申し上げます。敬称略。

松原弘明プロフィール
福岡県生まれ。大学在学中の80年代始め、プロのジャズピアニストとして福岡で活躍後、沖電気工業株式会社に入社。入社後一貫してサウンド系のLSIの開発、商品企画に携わる。2004年2月より上海在住。現在、OKIの半導体中国拠点である日沖科技(上海)有限公司 【略称OSTS】 董事副総経理。OSTSのウェブサイトは http://www.osts.com.cn 
上海古北の名都城内のイタリアンレストランil Cuoreで、毎月一回ピアノ演奏中。
 


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